ブルートレインたらぎとは
本日の宿は、熊本県球磨郡多良木町にある「ブルートレインたらぎ」です。
くま川鉄道・多良木駅に隣接する簡易宿泊施設です。かつて寝台特急「はやぶさ」として活躍した客車を保存し、使用しています。
日本各地に鉄道車両の保存はありますが、実際に宿泊できる施設としては、2021年現在、日本唯一の施設と言っていいでしょう。
2009年3月、多くの鉄道ファンに惜しまれながら廃止された寝台特急「はやぶさ」。東京―熊本で使用されていた3両をJR九州より購入し、面影を残しながらリニューアルした簡易宿泊施設です。前面に「はやぶさ」のヘッドマークが入る「スハネフ形」1両と「オハネ形」2両で構成されています。宿泊スペースは2両。もう1両はテーブル・テレビなどを設置した多目的スペースですので、飲食や談話室としてご利用いただけます。
ブルートレインたらぎ公式HPから引用
ブルートレインたらぎ
住所 | 熊本県球磨郡多良木町多良木1534-2 |
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TEL | 0966-42-1120 |
営業時間 | チェックイン 14:00~21:00 チェックアウト 7:00~12:00 消灯時間 22:00 |
定休日 | 無休 |
利用料金 | 大人 3,140円 小人(3歳以上中学生まで)2,090円 幼児(3歳未満)無料 |
備考 | 歯ブラシなどのアメニティはありません。 |
※営業時間等は、和休が調べたものです。
昭和世代のあこがれ「ブルートレイン」
新幹線がまだ誕生していない昔のこと。
長距離列車といえば、寝ている間に目的地に到着する夜行列車が主流でした。東京駅、上野駅、大阪駅などの主要駅は、夕方にもなると、日本各地へと旅立つ列車がばんばん発車していました。
寝台特急「あさかぜ」
1958年(昭和33年)10月1日、寝台特急「あさかぜ」がデビューしました。
これまでの客車と大きく違うところは、すべての車両に冷暖房が完備され、窓が固定窓になったことです。
青一色の車体に白3本の帯をまとった優雅な列車は、いつしかブルートレインと呼ばれ、またその快適さから「走るホテル」と称されました。
もちろん、これまでの客車にも冷房を備えたものはありました。客車の冷房は床下に装備したディーゼル発電機によるもので、車両ごとに電気をまかなっていたのです。
一編成すべてが冷房付き、という客車列車は「あさかぜ」が一番最初です。
集中電源方式
「あさかぜ」は車両の端に、電源車という編成に電気を供給する大型のディーゼル発電機を搭載した車両を繋げていました。
電源車から供給される電気で、車両にある冷暖房装置を稼働させていたのです。これを「集中電源方式」といいます。
余談ですが、「あさかぜ」以前の客車は、暖房に機関車から供給される蒸気を使っていました。
蒸気機関車の時代は、機関車で発生した蒸気を客車へと供給し、ディーゼル機関車や電気機関車の場合は、機関車に暖房用の蒸気発生装置を搭載して客車に供給していました。
集中電源方式の弱点は、途中駅で編成を分割したときに、電源車が無くなってしまうと電気が供給できないので、あらたに電源車を用意する必要があるところです。
分散電源方式
「さくら」という東京←→長崎・佐世保を結んでいたブルートレインがあります。
途中、佐賀県にある肥前山口駅で、長崎行きと佐世保行きとに分割するのですが、電源車の無くなる編成には、別に電源車が用意されていました。
このように途中駅で分割する列車に対応するように作られたのが、「分散電源方式」と呼ばれるものです。客車の床下に、自車を含めて4両に電気を供給することのできる発電機を備えることで、電源車を不要としました。
かつて「はやぶさ」は東京←→西鹿児島(現:鹿児島中央)を結ぶ列車として設定され、集中電源方式を採用していましたが、2005年、寝台特急「富士」と連結して運転されるようになった際、分散電源方式に変更された経緯があります。
ブルートレインたらぎの客車
ブルートレインたらぎに保存されているのは、晩年の「はやぶさ」に使用された3両。分散電源方式の14系客車と呼ばれる車両です。
1号車 B寝台車 スハネフ14-3 | 2号車 多目的スペース車両 オハネ15-6 | 3号車 B寝台個室(ソロ) オハネ15-2003 |
国鉄客車の形式は、重さを表す文字、等級を表す文字、その他の設備を表す文字、車両グループの番号、製造順が組み合わされてできています。
1号車スハネフ14-3とは、「ス」級の重さ(37.5~42.5トン未満)で、「ハ」は普通席、「ネ」は寝台車、「フ」は車掌室が付いている、14系の客車で3番目に造られた、ことを表しています。
ハとネを組み合わせてB寝台車を表します。
1号車 スハネフ14-3
1号車スハネフ14は、車掌室が付いた普通寝台車(’B寝台車)ですが、それだけでなく分散電源方式の特徴である、発電機を床下に搭載しています。
途中で分割するような列車に適した形式ですが、発電機が発する振動と音は相当なものだったそうで、うるさくて眠ることができない方もおられたとか。
スハネフと書かれた形式番号の横に、キャップのようなものがありますね。ここが、発電機の燃料を入れる給油口です。
ブルートレインたらぎの客車は、一般的な建物と同様に発電所で発電された電気を引き込んでいますので、ディーゼル発電機は使っていません。
スハネフ14の車内です。開放型B寝台と呼ばれます。車両の横方向に2段ベッドが向き合うように並んでいます。
建築基準法などの関係で誘導灯などの安全設備が追加されていますが、内装はほとんど当時のまま。
登場当時は、3段ベッドだったのですが、快適性の向上が図られて2段ベッドに改造されました。
14系には、14系と14系15型という2形式が存在します。簡単な見分け方としては、寝台側と通路側の窓の大きさが同じであれば14系、寝台側の窓が小さければ14系15型です。
窓が大きいので、上段寝台が窓に重なっています。寝台として使用しないときは、少し上にベッドを移動させることができるようになっています。
のちに造られた14系15型は、ベッドの昇降装置を省略し、窓の天地方向を縮小しています。このような違いは、集中電源方式の24系と24系25型も同様です。
これは、上段ベッドへ上がるための梯子です。使用しないときは、邪魔にならないように折りたたまれています。
引き手をもって展開すると、このように梯子になります。
通路の天井には鏡が備えられており、身だしなみをチェックすることができます。
廊下側の窓下には、折り畳みの椅子が格納されています。
展開すると、このようになります。眠れないときは、この椅子に座って車窓を眺めることもできます。
こちらは車両の出入り口です。バスのような折り戸になっています。北海道で使用する車両は、雪や氷で開かなくなることがあったそうで、引き戸になっています。
一般的な通勤車両では、折り戸を採用していることは無いですよね。こんなところが、「今、ブルートレインに乗っているんだ!」という特別感を感じることができます。
スハネフ14の貫通扉です。通常運転時、ここまで立ち入ることができたかどうかは知りません。
向かって左側には、車掌室があります。ブルートレインたらぎでは、希望すれば車掌室の見学ができます。
壁には、昔懐かしいJNR(Japanese National Railways:日本国有鉄道)のロゴが入った温度計がありました。
車掌室との反対側の車端部には、トイレと洗面所があります。ブルートレインたらぎでは、車両オリジナルのトイレは使用できません。
鉄道車両のトイレは、床下に汚物タンクがあって、そこに汚物を貯める仕組みになっています。トイレを洗浄する水だけは汚物と分離して、消毒液を添加して再利用しています。
汚物タンクから汚物を抜き取るには専用の設備が必要ですので、トイレは使用できないようになっています。
トイレの反対側には、洗面所が2台並んでいます。この車両が現役で活躍していた頃は、毎朝混雑していたことでしょう。
トイレの横には、冷水器があります。こちらも現在は使用することはできません。
これは、和休も使ったことがあります。0系新幹線にもありました。
封筒のような紙コップが仕込まれていて、1枚ずつ取り出して、口を開けて使用するのです。キンキンに冷えていて、かなり旨かった記憶があります。
2号車 オハネ15-6
続いて、2号車です。ブルートレインたらぎの2号車は、フロントの機能や食事などをとることのできる多目的スペース車両として改造されています。
また、車両オリジナルのトイレは使用できないため、車両に接続する形でトイレが設置されています。
ブルートレインたらぎの玄関です。出入口の上にある「B寝台」の表示。どれだけこれにあこがれたことか。
横にある☆☆☆は、客車で2段式寝台を表しています。
ちなみに、☆であれば客車で3段式寝台、☆☆であれば電車(581、583系寝台電車)を表しています。
オハネ15-6の車内です。寝台は撤去されて、多目的スペースとして使用できるように改造されています。
左側と右側の窓の高さが違うことが分かるでしょうか。これが、14系15型の特徴です。
1号車スハネフ14の寝台側の窓はカーテンが備わっていましたが、14系15型である2号車オハネ15-6の窓は、遮光スクリーンになっています。
窓の上部には、寝台車であった名残の禁煙表示が残っていました。
3号車寄りにはフロントや電子レンジなどが設置されています。ブルートレインたらぎにチェックインするときは、まず、このフロントで手続きを行います。
電子レンジの下にある装置は、オルゴール装置。車内放送の前に流れるオルゴールのメロディーを流す装置です。後から知ったのですが、実際に鳴らしたり車内放送することができるそうです。
1号車の洗面所は近代化改造されていて、2号車オハネ15-6の洗面所がデビュー当時と変わらないものになります。
右のレバーをひねると水が、左のレバーをひねるとお湯が出てきて、中央の吐水口で混ぜ合わさって出てきます。
洗面台と洗面台の間にある金属の灰皿のようなもの。なんとこれ、痰壷です。痰を吐くときはここへ吐きだし、つまみを回すことで洗浄するような仕組みになっています。
壁には製造工場の銘版が貼られていました。昭和53年式。なんと和休と同い年です。
これがブルートレインたらぎの宿泊券・乗車券です。JRの切符を模した粋なデザインです。
部屋番号が訂正されているのは、最初下段を用意してくれたのですが、上段が大好きな和休の希望で、部屋を変えてもらったからなんです。
ブルートレインたらぎには入浴施設はありませんが、歩いてすぐのところに「えびすの湯」というお風呂屋さんがあり、なんと入浴料金は宿泊代に含まれています。宿泊券とは別に入浴券が渡されます。
3号車 オハネ15-2003 1人用個室寝台「ソロ」
今日、和休が予約したのは、1人用個室寝台車「ソロ」です。
ブルートレインも晩年になると、新幹線、高速バス、飛行機といった競合相手との競争に対抗できるよう、それまでの質より量という車両構成から、快適さをウリにした車両を連結することが増えてきました。
「はやぶさ」に連結されていた1人用個室寝台「ソロ」は、1人用個室でありながら通常のB寝台車と同額であったことから大変な人気があり、この車両からチケットが売れていったといわれています。
2号車から3号車へ移動します。この扉の向こうが3号車です。
3号車、ソロの通路です。右下にみえる黒い丸い窓は、1階の個室に設けられた窓です。通路側が見えるようになっています。
和休に割り当てられた2階の部屋です。はっきり言って個室寝台は狭いです。特に2階は階段の下でないと、室内で立ち姿勢をとることはできません。
寝台には、シーツと毛布が備えられています。これらは、現役で走っていたときと同じものが使われているそうです。
シートの柄が派手だなぁ、と思っていたのですが、のちにJR九州の特急車両「ソニック」で使われているものだ、と教えていただきました。
手荷物を収納する棚がありました。限られた空間を上手く使っています。
天井には、空調の吹き出し口などが備わっています。
屋根のカーブに合わせた窓なので、カーテンではなく、遮光スクリーンが備わっています。
ソロの洗面所は、新幹線のように半個室になっています。実際に使用することができます。
風呂&メシ
車両探検を終えたら、お腹が減ってきました。メシの前に風呂に入ってさっぱりしたくなりました。日が沈むと寒くなりますしね。
ブルートレインたらぎには入浴設備がありませんので、近所にあるえびすの湯というお風呂屋さんへ向かいました。
風呂に入ってさっぱりした後は、いよいよメシの時間です。
ブルートレインたらぎには、ぐるめMAPが備え付けられているので、近所の食事処を選ぶことができますが、コロナ禍なので地元の方が集まってワイワイしていそうな居酒屋には入りにくい。
近くをウロウロしたみたものの、結局スーパーでお惣菜などを買い込み、ブルートレインで食べることにしました。くまモンのワンカップは、今も職場の机の上に飾ってあります。
テレビの下には、Nゲージの鉄道模型でブルートレインたらぎの編成を再現してありました。室内灯が点灯していて、いい雰囲気です。
食事を食べたら眠くなってきました。明日も朝早くから出発する予定です。子供の頃乗りたかった、ブルートレインで一夜を過ごすことができるのです。
今日は寝台車を満喫するために、早めに寝ることにします😪
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